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――その頃。
宇宙船の舵取りの中枢である操舵室では、ソウゲツ大佐が中央の席に深く腰掛けていた。
握った両手を口元に当てて操舵画面を注視している。
プログラムした自動操縦システムに問題はなく、無事に大気圏を抜け出したことが確認できた。
あと数時間もすれば地球の全景が見られるだろう。
ひとまず安心だ。
タキヤが氷の入っていないアイスコーヒーを渡すと、大佐は喉を鳴らして旨そうに飲みほした。
「どうだね、お姫様の様子は?」
「お部屋でくつろいでいらっしゃいます。手前味噌のチョコレートを喜んで下さいましたよ」
「それは良かった」
「いや、それにしても驚くばかりの美しさですな。久しぶりに緊張してしまいましたよ」
「見とれていては任務に支障がでるな」
大佐は空になったグラスをタキヤに返した。
「しかし少々お疲れのご様子。今日はこのままお休みになるかもしれません」
「問題ない。まだ先は長いのだからゆっくり休んでもらおう。運航プランは明日の朝にでも説明する」
タキヤが礼をして出て行こうとしたその時――。
「タキヤ」
ふいに大佐が呼び止めたので何か御用かと振り返る。
すると意外な一言。
「チョコレートが欲しい」
主人の珍しい要望を受けた執事は「おやおや」と内心驚きつつも
意味ありげな表情を浮かべて操舵室を後にしていった。
・・・・・
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