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大佐の言葉に、姫は残念そうな様子で椅子にもたれかかってしまった。
ライチの果肉のような唇をツンと尖らせている。
大佐は土星の模型に目をやると、天体の周りのきらめく何層もの環をそっと指でなぞった。
なにか良い手はないかと考えをめぐらせ、やがて口を開いた。
「うむ、双眼鏡ならハッキリと見ることができるだろう。近くを通りかかったら、ホールの窓から観察してみましょう」
この言葉にお姫様はパッと顔を輝かせると、嬉しそうに頷いた。
「本当に? うん、ソウゲツ大佐、約束だよ……!」
そしてふたたび浮遊模型に視線を戻すと、生き生きとした表情でそれを見つめはじめる……。
土星の輪が緋色の瞳の中でキラキラと光る様子を眺める大佐は、少女がそれを離すまでは好きにさせてやろうと決めると、側の椅子を静かに引いた。
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