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――夕方の頃。
アン・ボニー号は火星の軌道線に並ぶと、グングンとスピードを上げて追い越し、ガイドラインの赤く煌めく光も今ではただ淡く見えるのみとなっていた。
いよいよ火星のお姫様は故郷を少しずつ離れることになるのだ。
やはり感慨深いのだろうか。
ホールの窓辺には、もう戻れない今来た空間をじっと見つめるお姫様の姿があった。
地下のジムで日課のトレーニングを終えたジェイドは、ホールで姫の姿を見つけると、ふと足を止めた。
しかしその横顔に声をかけるべきか迷う。
それは「そっとしておいて」とも「僕を1人にしないで」とも受けとれるのだった。
こんな時、ソウゲツ大佐やアキラなら気の利いたことをしてやれるのだろう。
けれど自分にはこれしかないのだ。
「よう、リーネ姫。俺と遊ばねーか?」
迷った末にでた言葉がこれ。
ナンパまがいの誘い文句は傷心の相手に対してどうかと思うが、仕方がない。
けれどお姫様は予想外に乗り気な様子で嬉しそうに振り向いた。
「いいよ! 何する?」
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