第1章

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 「ギャーッ!!!」「やっ…(ヒック…)や゛っめ゛でぇっ…(ヒック…)」 バスも日に一往復半しか通らない静まり返った山あいに在る一軒の家から泣き声が響き渡る…。  泣き声の主、川本智恵-ともえ-(小学中学年)智恵は酒乱の父(辰己-たつみ-《畳職人》)と、万引き常習者、且つ学不足なのに狡賢い母(豊-とよ-《食品工場勤務》)と、そして二つ上の微妙な発達障害の姉(美恵子-みえこ-《小学高学年》)との四人家族だった。  毎度毎度、父親の怒鳴り声と母親の泣き叫ぶ声の後は決まって智恵の泣き叫ぶ声があがっていた。  その声が余りに酷くなると、窓をノックし開ける近所のおばちゃん…  この、おばちゃん…都村-つむら-の、おばちゃん…と呼んでいた。 都村のおばちゃんは、智恵の父が小さい時に都村家に嫁いできた。 「たっちゃん!まぁーった酒飲んでぇ!なして子供に手ぇあげるでぇっ!…はぁおばさん来たんじゃから止めんさぃ!」 「智ちゃん、はぁおばさん所へ行っちょきさん!」 智恵は泣きながら、 「行ったら父さんが、また怒るぅ…」と途絶え途絶えの声で言うと、 「おばさんが、言うんじゃから父さん怒りゃせんけぇ!行きさん…ええ子じゃからのっ…行っちょきさんやぁ」 …と、父親からの暴力が悲惨な物になるといつも助け船を出してくれたおばちゃんは、智恵にとって親以上の存在者だった。
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