第1章

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 幼稚園の時に引っ越して来てから、毎夜毎夜…飲みすぎて暴れる父親と、智恵が殴られ引き摺られ泣き叫んでも庇おうとせず、火に油を注ぐ母親…何年もそんな生活をしてきた中で都村のおばちゃんは智恵になくてはならない存在だった。  そんな智恵が学校の授業で書いた作文が有線放送で紹介された。  [私の(僕の)将来の夢は…]で、始まる小学生の作文。ほとんどの方々が書いた事があるのではないでしょうか。  [私の将来の夢は看護婦さんです。]または、[僕は将来、野球選手になりたいです。]や、[私は、絵が得意なので漫画家になりたいです。]とか、[僕は将来お父さんの仕事を手伝いたいです。]など…まだ小さく幼い胸に大きく膨らむ、夢や希望を原稿用紙に書き連ねたものでした。  智恵も、例外ではなく、将来の夢について作文に書いたのでした。  『私の将来の夢』 三年 川本 智恵  私には将来、絶対やりたい事があります。それは小さい時から良くして貰った都村のおばちゃんをハワイ旅行に連れて行ってあげる事です。  一生懸命、仕事をして、たくさんお金を稼いで貯金して、貯金が貯まったら都村のおばちゃんをハワイ旅行に連れて行ってあげたいです。…から始まった智恵の将来の夢という題の作文が、夜、田舎町の有線電話から流れる放送で紹介されたのをきっかけに、都村のおばちゃんは次の日から智恵に、 「智ちゃん、おばさん嬉しかったでよぉ…智ちゃんの作文聞いちょったでぇ」と笑いながら話し掛けた。 その作文から智恵と都村のおばちゃんとの約束がうまれた。 都村のおばちゃんは余程嬉しかったのか何年たっても智恵の顔を見かける度に、作文の思い出話を繰り返した。智恵も何年たってもその気持ちに変わりはなかった。が、相変わらずの父親の暴力に堪えかねて智恵は中学生から道を反らし中学三年の時には、家に帰らなくなった。合間に帰ったらいつも警察官が同伴しての帰宅だった。
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