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『どうだか。友だちってどうせ男だろ。チヤホヤされたがりだからな、お前』
「そんな言い方しないで」
きし、きし、と1歩歩くごとに固まりかけている雪が鳴った。
『もうそのコンビニ行くなよ』
「うん。行かないよ」
行かなくても、またどこかでバッタリけんちゃんに会うかもしれない。この街は狭いから。
家について、絵美とコタツに入ってザリガニパンを食べた。絵美は「普通だね」と言っていた。
「今1番売れてるらしいよ。テレビに出たんだって」
「へー、そう。名前と見た目が変わってるだけじゃない?」
コーヒーを袋から出した時に気がついた。コンビニの袋の中には、けんちゃんの名刺が1枚入っていた。
白地に黒。会社の名前、住所、フルネーム、それに携帯電話の番号。
「ママー、それなに?」
別れ道で『ようこ』と呼び止められた声が、耳から入って私の腹にたまっている。ただのロールパンだったザリガニパンと混ざりあう。
「……タイムマシーン」
絵美がきゃきゃ、と笑った。そのまま小さな体を抱きしめて、ごろん、と畳に寝そべる。少し眠ったら、過去に飛べるような気がした。
写真を撮って、名刺は捨てた。
【コンビニエンスストア】
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