8人が本棚に入れています
本棚に追加
けんちゃんが嫌そうに眉を下げて笑う。そんな気取った笑い方は昔と同じ。
「オジサンだよ、30だもん。いいよな、ようこまだ20代だろ。2歳違いでえらい差だ。こんなとこで何してんの? 県外引越したんじゃなかったっけ? 結婚して」
だから地元は嫌だ。赤の他人の情報までどんどん耳から入って腹にたまっていく。パンパンになって身動き取れなくなるのが嫌で、私は外に出た。
「今だけこっちに住んでるの」
『なんで?』とかいう話にはならなかった。2人とも大人だから。
「これ、知ってる? ザリガニパン。こないだテレビでやってから、今コンビニで1番売れてるらしいよ」
パンのコーナーで、けんちゃんがしゃがんだ。私も隣にしゃがむ。
「こんなのが売れてるの? 私テレビ見ないからわかんない」
「“わたし”」
けんちゃんがザリガニパンを3つ取って、小馬鹿にするように笑った。
「ようこ、もう自分の事“うち”って言わないんだ」
「言わないし。3つも買うの? そんなに美味しいの?」
ホットドリンクのコーナーに移動したけんちゃんについていく。
最初のコメントを投稿しよう!