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「そもそも前に離婚したのも、明かりのついた部屋に帰るのが嫌だったっていうか。家で待っていられるのが嫌だったんでしょうね」
「普通逆じゃありません?」
「そうかも知れない。でね、考え方変えたんですよ。結婚を意識しないで楽しみたいな、って。女友達は何人かいますよ、そりゃ必要でしょう? もっとフランクに考えてつき合いませんか」
「え、っと、あなたは一度結婚したことがあるからそれでもいいのかもしれないけれど、私は結婚相手を探すためにこの会に入ったんです。だからそれでは主旨が違うんですけど」
「もちろん結婚したいのなら邪魔はしませんよ。いい人が現れるかもしれないからそうしたらその人と結婚すればいいんじゃない。ところで僕の部屋、狭いけど掃除は得意なんで片付いてますよ。この後来ませんか?」
ぬゎにー!
牧歌的な見た目に危うく気を許しかけていたあさ美は我に帰ってその場を辞した。
(東京はおっかねえ所だから気をつけろー)
東京出身にも関わらずそんな言葉が心の中にこだまする。
都会の孤独と殺伐を身にしみて感じる夜であった。
くわばらくわばら。
翌月、あさ美は気をとり直して次の紹介相手との待ち合わせ場所に向かった。
今度は3歳年上の男性だ。
ところが彼女を待っていた男は顔を見るなり
「……んで」
ボソッと何かを言うと、スタスタと立ち去るではないか。
「もしもし、今何て言いました?」
追いかけつつ叫ぶあさ美。
「イメージ違うんで」
ふぁ? 何それ。
たしかにお見合い写真は女優メイクばっちりよ。
でも顔見て帰るこたぁないんじゃないの。
あのまま出てくると思うほうが甘いのよ、チミ。
それにしても40過ぎて見た目重視なのか。
5秒で立ち去った相手には怒りを通り越してあきれ果て、せっかくこのために取った土曜日の休暇がもったいないではないかと、そのことの方があさ美は悔しいのだった。
もう少しフツーの独身者というのはいないものなのか。
自分だけが不毛な目にあっているのだろうか。
そもそも自分はどうして婚活なんかしているんだろう。
あさ美は振り返ってみる。
それまではあまり考えていなかったけれど、人並みに結婚してみたくなった、それが今というだけだ。
結婚したいときが適齢期ともいうではないか。
41歳女子・結婚希望ということに対する世の中の評価はこんなものなんだろうか。
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