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海外添乗の仕事は時間も不規則だし、留守にすることが多いからなかなか彼氏もできない、と頼子は言った。
最後の彼氏とは三年ほど前に別れてそれっきり、と。
「別れたっていうか、消えた。消えられた、ってとこかな」
「逃げられたってこと?」
なんでも12日間のツアーに添乗して、帰ってきたら音信不通になってしまったとか。
ストーカーみたいにはなりたくなかったし、数日後にも次の出発が控えていて忙しかった。深追いはせずにそれっきりにしたらしい。
「そのツアータイトルがさ、『陽光のバルセロナと哀愁のアンダルシア』っていうの。帰ってきてからのほうがよっぽど哀愁だっちゅうのよ」
三年経つともう笑い話になるのか、未練もなさそうに頼子は言った。
「仕事に打ち込む女を見捨てるなんてサイテーよね」
あさ美は大きくうなずいた。
あさ美たちが社会に出たのは、男女雇用機会均等法が定着してからの時代。
キャリアウーマンという言葉はずい分前から見聞きしていたが、特別な人でなくても、女性も総合職でバリバリ働くのが当り前、という意識が浸透し始めていたころでもある。
それなのに、その気になって仕事を頑張っていたら、何? 独りじゃない、私。
同世代の男性はさっさと結婚している。独身の男もいるにはいるけれど、若い方若い方へとなびいていく。これ、納得できます?
鼻息荒く同意を求めるあさ美に、頼子は言った。
「まあね。でも怒ってもどうにもならないからね。コツコツ探していくしかないんじゃない?」
「あれ、頼子さん、余裕だなあ。もしや誰か見つかった? そういえばこないだのパーティーは結局どうだったのよ?」
「うん、まあ次回会ってみなければまだわからないんだけど……」
「えぇー、誰よー」
「システムエンジニアをしてるって言ってた」
「41歳の?」
「そう」
(えええぇー! それ、私もねらってたんですけどぉー)
思わず叫びそうになるあさ美であった。
ショックだったのは、頼子のほうに軍配が上がったということよりも、年齢だけが原因で自分がモテなかったのではないということを思い知らされたことだった。
「コツコツ探していくしかない」
頼子の言葉を反芻しつつ、あさ美は誓った。
「負けるもんか」
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