3 千里の道も一歩から

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3 千里の道も一歩から

結婚アドバイザーとの面談は一時間あまりにも及んだ。 まず「会員の属性」「お相手のご希望条件」という2枚のシートにこと細かに記入していく。 年齢、職業、収入、学歴、家族構成、身長、体重、趣味、特技等々。 これらのデータに基づいて、希望条件の合う者同士が毎月10人ほど紹介されていくと説明された。 「間口はなるべく広げたほうがよろしいですよ」 アドバイザーはおだやかに言う。 「年収が希望より1万円少ないとか、身長が1センチ足りないというだけでご紹介できないのはもったいないですからね」 その笑顔の下に押しの強さを隠し持っているのをあさ美は見逃さなかった。 だが、たしかにあれこれ贅沢を言っていられる立場じゃない。 船上パーティーの席でも思い知らされたばかりだ。 (はいはい、譲歩しろってことよね) それにしても、この条件の羅列というのが身もふたもないではないか。 そこはかとなく虚しさが押し寄せるのを禁じえなかったが、各項目に粛々とチェックを入れていく。 身長は高いにこしたことはないけれど、背の高さで飯が食えるわけでもなし、「こだわらない」にチェック。 年収ねぇ、そりゃあ多いほうがいいわさ、でも今さら玉の輿ってわけにもいかないだろうし、ただ自分より少ないのもちょっとカナシイかなあ……。 心の中でつぶやきながら進んでいくと、婚歴という欄がある。未婚・離別・死別。子どもの有無、親権の有無。 (げっ、現実的!) 項目としては当然ともいえることなのに、あらためて問われると引いてしまう。 そしてふと思いうかべるのだった。 おかあちゃんに死なれた男が赤子を背負い、もう一人の幼子の手を引いて 「この子たちの面倒をみてくれる優しい女性をさがしています」 とか言って力なく立っている姿を。 うーん、そこまでは……ナシ!  死別の欄は「不可」に力強くチェックを入れた。 最初のご紹介までに2週間ほどかかりますので、という説明を受けてガラスのドアを背にしたときには、ぐったりと疲れきってしまったあさ美である。
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