3 千里の道も一歩から

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頼子は年に十数回もヨーロッパへ行くと言っていた。 パーティーで知り合ったシステムエンジニアとは海外の話で意気投合したらしい。彼はロンドンに滞在していたことがあるようなのだ。 ただ、また会いましょうということにはなっているのだけれど、なかなかスケジュールが合わなくてね。 あまり期待もしていない風に言った。 「新婚旅行を検討するには気が早いけど、よかったら見てみて」 頼子から渡されたツアーパンフレットを開いてみた。 「五つ星ホテル確約、ゆったりステイ」 「パリの美術館で本物に出会う旅」 「世界遺産と豊かな食を満喫」などの文字が躍っている。 あさ美が参加したことのある海外ツアーよりもワンランクもツーランクも上の、豪華な旅行ばかりが紹介されている。 ページをめくっていくと、「人気添乗員がご案内する憧れの都市周遊」というタイトルが目についた。 「お客様からのリクエストを多数いただいているベテラン添乗員が、豊富な添乗経験から厳選した見どころをご案内するおすすめの旅」とある。 そこに笑顔で写る数人の中に、なんと頼子がいるではないか。 「頼子さん、人気者だったのかー」 意外というわけではなかったが、今まで何もなかった場所に突然できた建物の影で自分の視界が暗くなったような気分、といえば大げさだろうか。 とにかく自分だけ置いてきぼりをくらったようで、あさ美の気持ちは曇った。 「バリバリじゃん」 つい俗な言葉で表現してしまった自分がまたちょっと悔しかったりもする。
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