第1章

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携帯の画面に映っていたのは、二人の若い男女のツーショット写真。まだ10代後半である二人のあどけない笑顔。まだ何色にも染まっていないような透明なままの生まれたての赤ん坊のような笑顔。女性の方が、少し引きつり気味の笑顔だが、それでも幸福感が充分伝わってくる。 あれからもう10年もの月日が流れたなんて、早いような遅いような不思議な感覚だ。 「懐かしいね、その写メ。真奈、今思うと微妙に仏頂面だよね」 隣にいる隆行が笑った。 「緊張していたの、凄く。私はこの頃から隆行の事が好きだったんだから…」 真奈は遠くを見つめた。 「ねぇ、中村さん。一緒に写真撮ろうよ」 大学の掲示板前で2年生の隆行は、1年生の真奈に話し掛けた。二人は同じ演劇サークルの先輩・後輩である。 「えっ?」 真奈は驚いた。 「一度、中村さんと写真を撮りたかったんだ。嫌だった?」 「いいえ。全然そんな事ないです。今井先輩が、まさか突然そんな事を言うなんて思っていなかったので驚いただけです」 この時の真奈は、まだ何故隆行が突然写真を撮りたいと言い出したかは分からなかった。 隆行は携帯電話を持ち、カメラ部分を自分の方に向けて腕を伸ばした。 「もっとこっち来て」 隆行は、真奈に優しく語りかけた。 真奈は、隆行に近寄った。 パシャッと写真を撮る音が鳴り響いた。 「ありがとう。今、メールで送るからね」 隆行は携帯電話の操作を始めた。 「今井先輩」 「ん?」 隆行は、携帯電話を操作しながら返事をした。 「このまま時間が止まってくれたらいいのに…」 「そうだね」 隆行は、携帯電話の操作をやめると、ズボンのポケットに閉まった。 「俺も、ずっとこのままでいたいなって思うよ」 「…」 「俺、もうすぐ20歳になっちゃうんだけど、ずっと19歳のままでいたい。大人に近付くにつれて、無邪気さが少しずつ失われていくような気がして何だか怖いんだ」 「私、先輩の事が…」 「…」 隆行は真奈に微笑みかけた。 「今井先輩、お願いです。10年後もそのまま変わらずにいて下さい。20歳になっても、30歳になっても無邪気な子供のようで欲しいんです」 「俺も、出来る事ならそうでありたいよ」
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