0人が本棚に入れています
本棚に追加
『そこまでだ!!!』
ーーーーーが、しかし男の刀が降り下ろされるよりも前に、『私』の後ろで叫び声が上がった。
ぴたり、と止まる男と『私』。部屋の中の敵兵たち。
「そこまでにしろ……………投了する。 わしの負けじゃ」
白い幕で囲まれた「本陣」の中から聞こえるその声は、溢れんばかりの悔しさを隠すように震えている。
「ッ……殿ッ!いけません!すぐにお逃げになって………」
「ゴタゴタうるせぇよ。あんたの殿さんはもう投了したんだよ」
男は刀を鞘にしまうと、本陣の中に向かって声を上げる。
「さて、じゃあ約束通り、おたくの領土を頂くぜ!」
「……わかっておる………」
幕の向こう側が青く光る。すると、男の手の中にどこからともなく巻物が現れた。男はそれを開き、書かれている内容を確認する。
「……北部の領土5石の領有権………確かに受け取ったぜ」
「あ………ああ………」
その場に崩れ落ち、声を上げることもできないでいる『私』を尻目に、男と、その部下たちはのしのしと陣を後にしていった。
敵が去ると同時に、今まで『私達』がいた建物は跡形もなく霧散し、後に残ったのは殿がおわす本陣のみとなった。
『………撤収準備を。 皆のもの、すまない………』
「滅相もございません………我々が………至らぬばかりに………」
最後の方は言葉にすらならなかった。爪が白くなるほど強く土を握りしめた手の甲に、涙が落ちる。
ーーー負けてしまった。 また負けてしまった。 今度こそは本当に負けるわけにはいかなかったのに………。
ーーーーーーこの日、『私達』の国は抵当に入れることのできる最後の領地を失った。
最初のコメントを投稿しよう!