第0話 傾国の将

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『そこまでだ!!!』 ーーーーーが、しかし男の刀が降り下ろされるよりも前に、『私』の後ろで叫び声が上がった。 ぴたり、と止まる男と『私』。部屋の中の敵兵たち。 「そこまでにしろ……………投了する。 わしの負けじゃ」 白い幕で囲まれた「本陣」の中から聞こえるその声は、溢れんばかりの悔しさを隠すように震えている。 「ッ……殿ッ!いけません!すぐにお逃げになって………」 「ゴタゴタうるせぇよ。あんたの殿さんはもう投了したんだよ」 男は刀を鞘にしまうと、本陣の中に向かって声を上げる。 「さて、じゃあ約束通り、おたくの領土を頂くぜ!」 「……わかっておる………」 幕の向こう側が青く光る。すると、男の手の中にどこからともなく巻物が現れた。男はそれを開き、書かれている内容を確認する。 「……北部の領土5石の領有権………確かに受け取ったぜ」 「あ………ああ………」 その場に崩れ落ち、声を上げることもできないでいる『私』を尻目に、男と、その部下たちはのしのしと陣を後にしていった。 敵が去ると同時に、今まで『私達』がいた建物は跡形もなく霧散し、後に残ったのは殿がおわす本陣のみとなった。 『………撤収準備を。 皆のもの、すまない………』 「滅相もございません………我々が………至らぬばかりに………」 最後の方は言葉にすらならなかった。爪が白くなるほど強く土を握りしめた手の甲に、涙が落ちる。 ーーー負けてしまった。 また負けてしまった。 今度こそは本当に負けるわけにはいかなかったのに………。 ーーーーーーこの日、『私達』の国は抵当に入れることのできる最後の領地を失った。
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