第2話 声

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逃げ出すようにその場を後にした俺は、町外れまで歩いた。途中、かつて通った将棋道場の跡地を通りすぎた。…あの道場も、席主が亡くなった影響で潰れてしまっていた。つい去年の事だった。今は雀荘になっているそのビルを、極力目に入れないようにしなが、街を出た。 一度街を出ると、そこはちょっとした里山だった。夏になるとカブトムシがよく取れることで有名なスポットで、子供の頃はよく友達と訪れたものだ。 「………まぁ、他に行くとこもねぇしな……」 そう呟くと、雑草が生い茂る雑木林の中に入った。クロッ○スを履いているから、この悪路はめちゃくちゃ歩きにくい。しかしこのときの俺は、とにかく何かをしていないといられなかった。さっきのポスターが俺をそうさせたのは間違いない。 はぁはぁと荒い息を吐きながら藪のなかを進む。手は擦りきれ、足には木の枝が刺さるが、それでも進み続けた。正直引き返すのも面倒だったし、このまま進んでいくと何があるのか、少しだけ気になっていた。 果たして俺は山の頂上に着いた。 「………なんだよ、何もねぇじゃねぇか…」 そこには、俺が期待したような面白いものなどは無く、よくあるような木のベンチと屋根付きの休憩所、それと落下防止の木の柵があるだけの広場があった。 小さくため息をつき、ベンチに腰かける。しかし、雨水が残っていたのかすぐに尻が湿ってしまい、慌てて立ち上がった。 「チッ……クソが……!」 ベンチに悪態をつき、今来た道を引き返した。……こんなことなら家で寝てりゃあ良かった………。 募る苛立ちを振り払うかのように、荒々しい足取りで斜面を下る。とっとと帰って、酒でも飲んで寝よう。明日もまたバイトだし………。また同じクソみたいな毎日が……… 『だれか…』
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