愛犬

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 あれから一週間。  翌日、迎えに来ると言ってくれた友達との約束を守り、アタシは久しぶりに登校した。  みんなの目は痛かったし、あれこれひそひそ言っている人もいたけれど、仲良しのあの子はずっと隣にいてくれたし、アタシを心配してくれていた子も何人かいて、アタシはもう一度学校に戻ることができた。  再び学校に行くようになったアタシを見て、お母さんは涙を流して喜んでくれたし、お父さんは何も言わなかったけれど、二人が喧嘩をすることはなくなったから、多分安心してくれたんだと思う。  …モコ。あの日、アタシの前に現れたのはアンタよね? お父さんもお母さんもいない休みの日に、アタシの前に現れた。昔通りの仕草でアタシを安心させて、その勢いで玄関前まで連れて来て、あの子が通るタイミングでドアを開けさせた。  これ、全部アンタの仕業でしょ? もしかしたら、お父さんとお母さんがいなかったのもアンタがしたこと?  犬のくせに…って一瞬思ったけど、でも本当は、とてもとてもそんなこと一瞬でも思っちゃいけないって自分で判ってる。とってもとっても感謝してる。  アタシ、前みたいに学校に行けるようになったよ。少ないなりに友達もいて、辛いこともあるけど、楽しいって思うこともたくさんある日々を送ってるよ。  今、幸せだなって思うよ。  モコ。ありがとね。アンタがあの日現れなかったら、アタシはまだ自分の部屋に引きこもったままだった。多分これからも引きこもってた。  …ええっと…あのね。実は今、お父さんお母さんと話し合って、新しく、トイブードルの赤ちゃんを家族に迎え入れようかってことになってるんだけど、その子に、『モコ』って名前、付けてもいいかな?  家族三人で色々考えて、どうしてもそれがいいって思ったんだけど…いいかな?  心の中で、今は傍らにいない愛犬に問いかける。  遥か遠く…多分天国から、了解の合図のように『わん!』という鳴き声が聞こえた。 愛犬…完
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