愛犬

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愛犬

 理由は自分でもはっきりとは判らない。  色んなことのタイミングや積み重ねで学校に行けなくなった。  目に見えたいじめがあった訳じゃないし、離せる友達も一応いる。でも、家から出られなくなって、一日中部屋に閉じこもっていた。  お父さんは会社。お母さんもパートに出てるから、昼の間は静かで助かる。でも夜になると、お母さん一人の時はアタシを説得しようとする声が、お父さんが帰って来てからは二人が喧嘩をする声が聞こえてきて、ますますアタシは部屋を出られなくなった。  そんな時にいつも思い出すのは、少し前に死んでしまったモコのことだ。  モコはアタシが幼稚園の時にウチに来たトイプードルで、モコモコした見かけだったからモコと名づけた。  やんちゃだけど甘えん坊で、歩くたび、しょっちゅう足元にまとわりついてきた。  でも今年の春先に老衰で死んでしまった。  モコはかわいかったなぁ。一緒にいると楽しかったなぁ。今の生活も、モコが生きていてくれたらもっと楽しいのに。  いつからか、モコのことを考えているだけで一日が終わるようになった。  そんなある日。  その日は日曜なのに、やけに朝から静かだった。  いつもなら日曜は、一階からお父さんとお母さんの気配がする。喧なのに今日はまったく人の気配がしない。  二人して、朝早くからどこかへ出かけたのだろうか。だとしたらアタシには好都合だ。  そっと部屋から出て台所へ行く。いつもはお母さんが朝食を持って来てくれるけれど、部屋の扉を開けた瞬間、そこに立っているんじゃないかと思うと気が気じゃなかった。でもいない時なら安心してごはんを食べられる。  何を食べようかと冷蔵庫を物色する。その足元に何かがへばりついてきた。 「?!」  咄嗟に足を振り上げかけて、アタシは動きを止めた。  そこにいたのは一匹のトイプードルだった。そいつがアタシをくりくりした目で見上げている。 「…モコ?」  反射でその名が口をついた。だって、そのトイプードルはモコにそっくりだったから。  もしかしたら、アタシの機嫌を取るために、モコにそっくりな子を買ってきたの? …そんなあざとい手には乗らないんだから。  子供騙し過ぎる両親の考えに心の中であっかんべーをする。でも、目の前にいるトイプードル自体に罪はない。
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