雪原

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 本条亮人は実に久しぶりに拳銃の保管庫にいた。2カ月ぶりに手にした拳銃は弾が入っていなくてもずしりと重さを感じる。不気味に黒光りする銃身を撫でると、事件の記憶がありありと蘇ってきた。自分があの時拳銃を持っていなかったら。そうしていたら、事件はもう少し―平和に、とは言い難いかも知れないが、ましな終結を迎えていただろうと思う。  「ということで、この件は我々が扱う。初動は神田、本条。行方不明者の身辺捜査を中心に行え」 12月、いよいよ冬本番を迎えた札幌は一昨日から本格的な雪化粧をした。警察、それも殺人事件などを扱う捜査一課の刑事たちにとっては頭の痛い季節であった。雪の積もった道はアスファルトと違って証拠となりうるものを瞬く間に消し去ってしまう。足跡などはその代表格だ。 「我々の出番じゃないといいですけど」 本条は左を歩く神田に話しかけた。 「それを確かめるのが初動だ」 神田は速度を緩めることなくいつもの調子で淡々と返してくる。念願の捜査一課に異動して8カ月、本条は同じ第5係の先輩である神田暎と共に捜査を行うことが多かった。本条は最初神田が少し苦手であった。というのも、神田が何を考えているのかよくわからないことがしばしばあったし、神田が醸す独特のつかめない空気になんとなく極まりの悪さを感じた。おまけに(刑事である以上は当たり前なのかもしれないが)ふとした時の眼光があまりに鋭かった。怖いわけではないのだが、よくわからないのだ。
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