哀殺

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 激しい抵抗がふっと止み、代わって60数キロが腕にのしかかる。また、ひとり。ぼくは愛したひとを殺した。また。また、独りだ。  ぼくが大多数の「普通の人」ではないと気付いたときからぼくの孤独は始まった。ぼくが最初に愛というものを知ったのは、彼と出会ってからだった。彼はいつだってぼくに笑いかけ、ぼくを笑顔にさせた。彼はぼくの「特別な友達」だったのだ。少なくとも、彼がぼくに好きな人ができたと打ち明けるまでは。  ――「好きな人ができたんだ」ちょっとはにかんで打ち明けた彼の笑顔は、ぼくの知っている笑顔じゃなかった。なんだか変な気分になって、だからぼくも彼に打ち明けた。「ぼくにも好きなひとがいる」、と。それが、きみだ、と。ぼくは心臓を渾身の力で握りつぶされたような、はらわたをめちゃくちゃに引っ掻き回されたような、そんな気がして吐きそうになった。身を引き裂かれるような痛みにぼくは耐え切れなくて、意識がすっと遠のいた。気がつけば、ぼくの腕の中には彼が横たわっていた。  それからずっと、ぼくは独りだ。どんなに求めても決して報われることはない。いつだって僕を貫くのは軽蔑の視線と容赦のない言葉の刃。
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