0人が本棚に入れています
本棚に追加
/31ページ
寒い。寒い寒い寒い寒い!ああ、なんでこんなに寒いかな。外はよく晴れてるし、天気予報は最高気温20度越えを伝えている。寂しい冬がやっと終わって桜が咲いて、このうららかな春の日に。なぜ私はこんなにも寒さに震えているのだろうか?ああ寒い。
「どうにかしてくれっっっっ!!!」
「うるさいですよさっきから!」
耐え切れず叫んだ私にすかさず彼女が切り返してきた。
「寒いのは分かりますからさっさと手動かしてください。作業が遅いほど寒くなるでしょう!」
くそ。
「寒いから手が動かんのだ」
「じゃあネズミの方とかあったかいところの作業しに行って下さい」
「それは・・・」
「作業しないで震えてるだけならいなくても変わりませんから。こっちは私一人で良いです」
こいつは。全く分かってない。私にとっては一人温かいところで寂しく作業する方がよっぽど寒いというのに。それなら―10度の低恒温室で彼女と二人で作業をしている方が良いに決まっている。
「・・・風邪、ひきますから」
淡々と作業を進めながら彼女がぼそりと呟いた。それはつまり、私を心配して言っているというのだろうか?だとしたら期待をして良いものだろうか、としばらく彼女の言葉を反芻していると、彼女は使い捨てのゴム手袋を外しながらそっけなく続けた。
「先輩が風邪ひいたら誰が面倒見るって言うんですか。私の仕事これ以上増やさないでください」
・・・ええと、つまり。期待、していいのか。
「・・・風邪ひいたら看病してくれるということだと解釈するが、」
その瞬間、彼女はばたん!!と盛大に音を立ててサンプルの入ったクーラーボックスを閉じると私をきっと睨みつけた。
「もう寒いところの作業終わっちゃいました。あったかいところの方はちゃんと作業してください」
それだけ言うと、クーラーボックスを私に押し付けて先に低恒温室を出ていく。
・・・まったく。君が原因の風邪ならとっくに引いている。
最初のコメントを投稿しよう!