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「ママ、顔真っ赤~」
私の膝の上で蓮の話を聞いていた日葵が、指をさしてキャッキャッと笑う。今年で四歳になった娘は、私たちの願いに応えて健やかに育っている。
「もう、毎年バレンタインになるたびこの話するのやめてよ」
「いいじゃないか、日葵もパパとママの話、もっと聞きたいだろう?」
「うん、ひまりききたい!」
むぅ。
無邪気な笑顔でそう言われると、親としてはもう何も言えなくなってしまう。仕方なく、私は不満を示すために膨れっ面のジト目で蓮を睨む。
「ママは高校生のとき、よくパパの高校まで来てたんだぞ~。校門できょろきょろしながら待ってたママは可愛かったんだから」
「やめてってば、恥ずかしい」
蓮がいたずらっぽく笑うと、日葵も楽しそうにきゃあきゃあ笑う。ここは私が圧倒的に不利だ。
まあ、それも今のうちだけではあるけれど。
そう、口には出さずに心中で呟く。もう少し話が進めば、いずれ蓮のプロポーズを私が語る番になるのだ。それまではせいぜい余裕に浸っておきなさい。
外では、二月の寒空から真っ白な粉雪がちらほら降っていた。ホワイトバレンタインと言うと紛らわしいけれど、今日という日にはけっこう雪が合う。
思い出すにはささやかな代償を払わないといけない、そんな私たちの思い出は、きっとこれからも続いていく。
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