第1章

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 あの時を思い返すと、今でも顔が熱くなる。忘れ去りたいというほどでもないけれど、思い出すには羞恥というささやかな代償を払わないといけない、そんな過去。なんて言ったら、少し大げさかな。  当時中学生だった私には好きな人がいた。同じクラスの、サッカーをやっていた男の子。同学年の男子に比べて少し背が高くて、穏やかに笑う彼を、私はよく目で追っていた。  告白しようと思い立ったのは、一月の終わり頃だった気がする。彼が私とは別の高校に進学すると知って、私は二月のビッグイベントに想いをかけようと決めた。どうせ最後なのだから、と心づもりはしたはずだったけど、告白する前の晩は不安とかドキドキとかで寝返りを打ってばっかりだったっけ。  当日、放課後はすぐにやってきた。心の準備はしていたはずなのに、最後の授業は心臓がバクバク言っていて張り裂けそうだったのはよく覚えている。  彼はバス通学だったから、私はバス停が見える曲がり角に隠れてタイミングを待っていた。右手には手編みのマフラーとチョコの入った紙袋。本当はチョコも手作りにしたかったけど、それだと重すぎるかなと思って、市販の詰め合わせのものにしたんだ。  二月の寒空の下、彼がいつ来るのかやきもきしながら時を過ごす。もし彼が他の女の子からプレゼントをもらっていたらどうしよう、その女の子と一緒にこっちに来たら、なんて考えると、居ても立っても居られない。でもすれ違いになるのが怖くて、やっぱりここに留まろうと思いなおす。  それから少し経って、ようやく彼が姿を現した。いつものスポーツバッグを肩にかけて、ネクタイの下でシャツの第一ボタンだけ外した格好。幸い、その手には可愛らしい包装が施されたプレゼントは持っていないようだった。 「大丈夫、大丈夫だから」  強く鼓動を打つ左胸に手を当てて、私は自分を鼓舞するように呟いた。  狙うべきタイミングは、バスが来るちょっと前。彼に紙袋を渡して、想いを伝えたところでバスが来る。彼が何かを言おうとする前に、「バス、出ちゃうから!」と慌てたように言って退散する。  よし、完璧だ。
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