第1章

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「あ、あの!」  向こうの信号にバスが止まっているのを確認して、私は曲がり角から飛び出した。  所在なさげに佇んでいた彼は、こちらを見て少し驚いたような顔をした。そのもとに駆け寄って、私は手に持った紙袋を前に出す。 「これ、受け取ってくださいっ」  ちょっと声が裏返ってしまい、私は顔が紅潮するのを感じた。だが、彼が穏やかな笑顔で「ありがと」と言って私の手から紙袋を受け取ってくれたので、赤面したまま表情筋が緩んでしまう。  ちょうどいいタイミングで、彼の後ろからバスが来る。それを視界の端に収めて、私は彼の顔を覗き込んだ。  ――ううっ。  正面から見つめられると、ドキドキが加速して言葉が出てこなくなる。昨日あれだけ練習して、授業中もずっとシミュレーションしていたのに、たった二文字が伝えられない。 「その、あの……」  私が口ごもっている間に、バスが停車して扉が開いてしまう。早く、早く。そう思うほどに、頭の中がパニックになる。 「ごめん、もう、行くね」  彼は私の頭にポンと手を置いて、優しく笑む。それだけで涙腺が緩みそうになるけれど、私にはきちんと伝えたい言葉があるんだ。 「あの、ちょっとだけ!」  意を決して、彼を呼び止める。バスに乗ろうとしていた彼は、その姿勢のままにこちらを振り向いた。 「ずっと、ずっと前からすっ、好きでした! もしよかったら、付き合ってくださいっ」  言い切ってから、血が一気に顔に上るのを感じた。恥ずかしすぎて、彼の顔を直視できない。
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