第1章

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「ああ、全部、思い出した。薬師神君、俺を助けに来て、そのまま閉じ込められていたのか。そうか、ありがとう」  塩冶が起き上がると、ベッドから降り立ち上がった。 「ありがとう、あちらの塩冶も助けてくれて……」  助けられなかった。消えてゆく塩冶が、どうしてなのか笑顔を残してくれた。あんなに綺麗な笑顔があったのか。 「いえ、助けられませんでした。消滅させてしまいました……」  塩冶が、琥王の腕から俺を離すと、俺を抱き締めていた。 「それが、一番の救いであったよ。ありがとう、俺の神様」  他に【返還の血】も世界に帰してしまった。 「あ、あの……返還の血を……」 「分かっているよ、これで、俺もゆっくり眠れる。ありがとう。それから、ごめんね、心配をかけたね。これから、ずっと大切に守ってあげる、俺の神様だからね」 「塩冶さん、薬師神は俺のです!」  琥王が、必死に塩冶から俺を引き剥がそうとしていた。 「かわいいね、嫉妬だね。琥王」  塩冶が面白がって、俺の額に口づけすると、琥王が真っ赤になって怒っていた。  この世界に戻って来られて良かった。  次の日、森のくまに行くと、芽実も泣いていた。俺は、三日間、風邪をひいていたということになっている。 「どうしてなのか。一弘君が存在していなかったみたいな気分になって、怖かった……」 「風邪です」  琥王が、古銭を全て使ってしまったと知っていたので、芽実も何かを察知しているのかもしれない。  早朝のバイトの後に、電車に乗ると、琥王が走って電車に乗り込んできて、俺の前に立った。周囲の記憶は、次第に元に戻ってきているのだが、どうにも違和感があるようであった。 「良かった、いつもの朝だ」  琥王でさえ、いつもを確認していた。  いつもの朝、パンを食べだすと、勿来が渋い笑顔の後に、風邪は大丈夫かと聞いてきた。記憶に改竄が起こっているのだ。次第に、皆の記憶に、俺という存在が戻ってきていた。 「あのさ、薬師神」  ベランダでパンを食べていると、琥王と二人きりになってしまった。 「分かった事があってさ。薬師神の、その、記憶からの消え方が、尋常では無かった」  そこで、琥王は気が付いてしまったのだそうだ。 「薬師神は、神憑きだけど、それだけではなくて、神みたいだ」  神?  さらりと言われてしまって、突っ込めなかった。 「神?」 「そう、かなり小さい神様だね」
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