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「ああ、全部、思い出した。薬師神君、俺を助けに来て、そのまま閉じ込められていたのか。そうか、ありがとう」
塩冶が起き上がると、ベッドから降り立ち上がった。
「ありがとう、あちらの塩冶も助けてくれて……」
助けられなかった。消えてゆく塩冶が、どうしてなのか笑顔を残してくれた。あんなに綺麗な笑顔があったのか。
「いえ、助けられませんでした。消滅させてしまいました……」
塩冶が、琥王の腕から俺を離すと、俺を抱き締めていた。
「それが、一番の救いであったよ。ありがとう、俺の神様」
他に【返還の血】も世界に帰してしまった。
「あ、あの……返還の血を……」
「分かっているよ、これで、俺もゆっくり眠れる。ありがとう。それから、ごめんね、心配をかけたね。これから、ずっと大切に守ってあげる、俺の神様だからね」
「塩冶さん、薬師神は俺のです!」
琥王が、必死に塩冶から俺を引き剥がそうとしていた。
「かわいいね、嫉妬だね。琥王」
塩冶が面白がって、俺の額に口づけすると、琥王が真っ赤になって怒っていた。
この世界に戻って来られて良かった。
次の日、森のくまに行くと、芽実も泣いていた。俺は、三日間、風邪をひいていたということになっている。
「どうしてなのか。一弘君が存在していなかったみたいな気分になって、怖かった……」
「風邪です」
琥王が、古銭を全て使ってしまったと知っていたので、芽実も何かを察知しているのかもしれない。
早朝のバイトの後に、電車に乗ると、琥王が走って電車に乗り込んできて、俺の前に立った。周囲の記憶は、次第に元に戻ってきているのだが、どうにも違和感があるようであった。
「良かった、いつもの朝だ」
琥王でさえ、いつもを確認していた。
いつもの朝、パンを食べだすと、勿来が渋い笑顔の後に、風邪は大丈夫かと聞いてきた。記憶に改竄が起こっているのだ。次第に、皆の記憶に、俺という存在が戻ってきていた。
「あのさ、薬師神」
ベランダでパンを食べていると、琥王と二人きりになってしまった。
「分かった事があってさ。薬師神の、その、記憶からの消え方が、尋常では無かった」
そこで、琥王は気が付いてしまったのだそうだ。
「薬師神は、神憑きだけど、それだけではなくて、神みたいだ」
神?
さらりと言われてしまって、突っ込めなかった。
「神?」
「そう、かなり小さい神様だね」
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