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「うん、俺も分かっているから、芽実さんも分かっていたよ、きっと。薬師神、何か凝視している時は、興味深々で楽しんでいる」
泣くよりも、計画しようと、琥王がどこからか紙を出してきた。
「朝は森のくまに行くのだろ?昼は学校、で、学校が終わったら、病院で芽実さんを治す」
俺の治癒能力ならば、芽実は一週間で完治できるだろう。
「毎日、病院に行こうな……」
琥王が、俺の頭を撫ぜ、前髪を掬っていた。
「リビングで口説かないようにね、琥王。それと、薬師神君、田所さんは大丈夫かな?」
えんきり屋も、森のくまからパンを仕入れている。
「一週間は入院のようです」
「そうか、大変だったね。今日は、添い寝してあげようか?泣き虫みたいだしね」
琥王が、塩冶を睨み、塩冶がそれを見て嬉しそうに笑っていた。
俺は芽実が入院している分も頑張ろうと、森のくまに出勤し、せっせとパンを焼いていた。琥王の母親は、本当に弁当を作ってくれたが、琥王はやはりパンが好きであった。
俺は、やや形の悪かったパンや、焦げたものなどを店から貰うと、それを昼食にすることにした。
「薬師神のパンも結構、評判はいいよね」
それは、薬師神のパンであるからだろう。見た目ではなく、力が入ってしまっている。
「でも、可愛い感じとか、きれいで、食べるのが勿体ないとかいう感じが欲しいかな」
琥王は、昼休みもパンを食べに来るようになってしまった。
「琥王、かわいいパンがいいのか?」
確かに、俺のパンは地味であった。俺は、甘いものが得意ではない。そこが、原因のような気もする。
「パンを買いに来る客は、女性が多いだろう。そこで、かわいいと嬉しいのではないのかな」
女性の気持ちは分からない。おいしければ良いというものではないらしい。
「でも、薬師神のケーキはおいしかった上にきれいだったな。相手を喜ばせる気持ちが重要なのか?」
少し分かった。ケーキを焼く時、俺は芽実に、喜んで欲しかった。
「分かった。明日、挑戦してみる」
「珍しく、素直だね」
家庭の事情を知ったのか、今日は俺のパンを取ってゆく人も少なかった。それどころか、差し入れと弁当のおにぎりを、分けてくれたりもした。
「帰りに、芽実さんのところへ行くね」
俺は、自分の能力で、相手の治癒能力を上げられるという事が分かった。他に、透視した箇所に、集中して治癒を行う事ができる。
「早く治るといいね」
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