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『あそこは何にもない山だ。
だが売らん。俺が死んでも、あの山にだけは誰も手を出すな。
いいな?』
親父の死に目の言葉を思い出す。
本当に何もない山だな、親父。
頑固で傲慢。
だが、価値のまるっきりない物をそのまま置いとくような人間ではなかった。
だから何もない山だと言われても、こうして見に来る価値はあると思ったのだが。
「こりゃダメかな。
山を崩すにも手がかかるし、なんか作るにもんな不便な場所じゃなぁ」
頭を掻いて婆さんに嘆く。
こんな怪しい、昔話にしか出てきなさそうな婆さんに何で普通に話してんのか、俺自身にも分からなかった。
「そうかい」と婆さんが答える。
俺は息をついて山を見上げ、そうして再び婆さんを見た。
にやりと笑って、言う。
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