No.9 [2016/01/12]

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----- 2016/01/05 -------------------- ギュリギュリと音を立てて走る旧式戦車の一団は、 サバンナを走りぬけグラノゼ河に架かる巨大な石橋に辿り着いた。 「報告!報告!前方石橋に人影あり!」 「全車散開!身を隠して状況確認!」 グワワワ、各戦車は方向転換し、各々安全を確保しながら指示を待った。 先頭の戦車が確認した人影、石橋の上にたしかに人らしきものが立っている。 この石橋の先は、敵国の警戒地域。リスクを最小限に抑えるための迅速な反応だった。 「人影・・・・、さ、侍です!」 スコープを除いていた兵士が驚きの声を上げる。 石橋に一人、仁王立ちしているのは赤い鎧の「侍」であった。 部隊長の息が一瞬止まる。 緊張。 侍とは何か、戦車隊の彼らにとっては敵国の最強の戦力であり恐怖の対象。 砲弾を食らってもビクともしない赤い鎧と強靭な肉体、 そして鋼鉄をフルーツのように両断する「刀」という武器を持つ。 その侍を目の前にして戦車隊員たちは一瞬思考停止した。 一瞬。 侍の姿が消え。 ガコン、という金属が落下する音が複数鳴り響いた。 戦車の砲塔が切り落とされたのだ。 部隊長が我にかえり「撤退!撤退!」と叫ぶ。 しかし戦車隊は撤退できなかった。 なぜならこの時、全ての戦車は、すでに"上下"に分けられていたからだ。 ----- 2016/01/06 -------------------- ヌヌママ族の村に到着した栗原を出迎えたのは、一人の青年だった。 青年以外にも赤い土でできた家に見え隠れしながら、何人かのヌヌママ族が様子を伺っている。 ヌヌママ族が近隣の他部族と違うのは、 果物へのこだわりである。 果物を大地の神からの愛ととらえ、果物と共に生き、死ぬ。 栗原の目の前にやってきた、この青年もその一人。 黄緑のバナナを紐で繋ぎあわせたものを首から下げている。 栗原は「ヴォハ ハラパヌオ」と、この土地の言葉で挨拶を行うと、 背中の荷物から<<塩>>が入った小樽を取り出した。 塩の樽を受け取った青年は、それを開封し、指で白い粒を掴み、それを舐めた。 青年は頷き、後ろで様子を伺っていた一人の少年に目で合図を送った。 そそくさと家に入り出てきた少年が持っていたのは、赤黒い果実。 掌に収まるほどのサイズのその果実を、青年は受け取り、栗原へと差し出した。 栗原はその実を鼻に近づけ、匂いを嗅いだ。 乾燥した死体と同じ匂い。 栗原は確信した。 この実は、"生き物の一部だ"と。
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