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作戦部少佐が近づいてきた。肩に手をおくといった。
「少尉、顔を見せてみろ」
3組の異種格闘技戦で、タツオの顔も身体(からだ)もぼろぼろだった。百キロを超える相撲部の強豪や床運動のタンブリングから打撃を繰りだす体操選手。それになんといっても、戦場で三桁(けた)の敵を屠(ほふ)ったという佐竹(さたけ)宗八(そうはち)とも闘っている。指の骨折だけで済んだのは幸いだった。
最後に近衛四家の幼馴染(おさななじ)み・東園寺崋山(とうおんじかざん)。この名前だけは忘れることはできなかった。タツオが生まれて初めて、この手にかけて殺害した少年の名前だ。カザンとは幼稚園にあがる前から、よく遊んでいたのに。タツオはすでに殺人者だった。この一週間、笑うことはずっと少なくなり、それを見た進駐軍の教官は、軍人らしくなったとタツオを褒(ほ)めた。大人はなにもわかっていない。兄が左目を指で押し開いてのぞきこんでくる。
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