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「だいぶ毛細血管が切れたんだな。まだ充血している。医者はなんといっている?」  どうせ逆島家秘伝の第二段階「観(かん)の止水(しすい)」の発動条件を気にしているのだろう。見ることの極限を超えた先に、体内クロックの操作術の奥義はあったのだ。兄・継雄も「止水」の訓練を受けていたが、まだ第二段階には至っていない。 「問題ないと。視力は落ちていません」 「指のほうはどうだ」  アルミの金属板を添え木に当てた左手の小指だった。きれいな単純骨折なので、骨にひびが入った場合よりも治癒(ちゆ)は早いという。あと2週間もすれば日常生活に困難はなくなるだろう。  秋の日は早かった。北不二の荒野がいつのまにか夕日に染まり始めている。目の前の防弾ガラスに青い影のような陰気な少年が映っていた。タツオはもう自分の姿には興味がなかった。高校生の甘さは東園寺崋山への必殺の一撃とともに打ち倒されている。
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