1

8/10
前へ
/10ページ
次へ
「あれからずっとふさぎこんでいるそうだな」  誰に聞いたのだろうか。タツオは兄とほとんど口を利いていなかった。 「ジョージがなにかいったのですか」 「菱川(ひしかわ)少尉から報告は受けている。毎日な。彼を恨(うら)むな。おまえを観察し、報告するというのは、正式な軍務なのだ。作戦部からの命令だ」  菱川浄児(じょうじ)はただひとり残されたタツオの親友だった。そこまで須佐乃男の正操縦者候補というものは、重要なのだろうか。親友に軍務でプライベートまで報告を上げさせるというのは、いくらなんでもやりすぎだ。息を抜く時間がなくなってしまうだろう。進駐軍少尉とはいえ、自分はまだ十六歳で通常なら高校に通っているはずだ。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

184人が本棚に入れています
本棚に追加