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 天萬高校の制服を着た大柄な少年が拳を握り締めて叫んでいる。 「自分は近衛四家筆頭・天童家の跡取り、天童航(わたる)や。おまえらはみな、進駐軍内部の序列としてはわしの風下やから、気をつけておくように。逆島断雄、菱川浄児、東園寺彩子、以上の三名は飛び抜けて優秀らしいな。今からわしの副操縦者になりたいというなら、部下としてかわいがってやるわ」  会議室中に響く音量でからからと笑う。サイコがそっぽを向いていた。横から見るとまっすぐな鼻筋がきれいだった。この少年が近衛四家の第一位・天童家のつぎの当主なのか。おおらかそうな性格で、官僚タイプの多い東島では見たことのない人間だ。  タツオは正操縦者を競うライバルをさらに注意深く観察した。天童ワタルはなにかが他の新任少尉とは違う。そのなにかがわかりそうで、なかなかわからなかった。 「あの目、おかしいと思わないか」  ジョージが低い声でいう。 「そういわれてみると……」  ワタルの目は黒だけでなく、わずかに銀を練りこんだような不思議な光を放っていた。あんな目は映画でも、絵画でも見たことがない。奇妙な底知れなさを感じさせる銀の目の光。タツオのなかで警戒警報が鳴っている。
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