◆頭を撫でる

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◇◆◇◆◇  眼を覚ませば、窓から僅かな光が差し込んでいた。    腕の中には相変わらず小さくて細い少女が眠っている。  故郷をなくしたその日から、他人の傍で仮眠をとることは愚か熟睡すらしたことがなかったというのに。  いつの間にか少女を胸に抱いて眠りにつくことが必然となっていた。むしろ、彼女がいないと落ち着いて眠ることなど出来なくなっていた。  ……死んでも、彼女には言わないけれど。 「……」  眼を覚ます気配のない彼女に額に、そっと唇を落とす。  ただ腕の中で眠っているだけ。  それだけなのに、どうしてこんなに愛おしさがこみ上げてくるのだろうか。  額に押し当てていた唇を移動させて、閉ざされたままの瞼にもくちづけを贈る。 「……」  つまらない。何の反応もない。  いつもならば、顔を真っ赤に染めて嫌がる素振りを見せる癖に。  すやすやと眠る彼女に、レインの中に嗜虐心がむくむくと湧き上がってきた。  早く、声が聴きたい。  パチリ、と金属独特の無機質な音が部屋に響く。  まるで力の入っていない彼女の手首から大切なバングルを外し、放り投げた。  あらわれた青銀の髪を一房掴みあげ、そっと唇を落とす。  ……まだだ、あの瞳が見たいんだ。夜空に輝く星が、まるで濡れているかのような奇跡の瞳が。 「……クレア」  たまらず、少しだけ開かれたぽってりとしたその唇に自身のそれを重ねた。 .
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