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シャワーからは水が出続ける。
その間にも水滴はヒトの形へと変わり、パニックに陥った彼女はシャワーの栓を閉めるのにも間に合わず、瞬く間に己の無数の分身にバスルームの狭い空間で溺れていった。
もはや彼女に残された手段は無く、天井に向かって右手を仰ぎ、もがくのみ。
綾音の視界は小さな分身によって埋もれ、暗闇と化し、意識が遠退いた………
"風間 綾音。 貴女は本当に、風間 綾音?
本当の風間 綾音?"
遠ざかる意識の中で綾音が聞いた声。
その声は紛れもなく、自分の意識が発したものではない誰かの声。
しかし、その声色や声量、口調はまさに綾音自身そのものの声だった。
ーー…………暗転した後に、彼女が昔から煩わされていた記憶の追体験が始まった。
その記憶はまた見知らぬ誰かの記憶ではなく、経験したことのない"もう一人"の自分の人生だった。
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