第二話 もう一人の自分

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 そんな私の最高な人生も今、儚く終わりを迎えようとしているのか。  直近の記憶を辿ると確か、私は一週間後に車のドリフト大会を控えていて……  日付が変わろうとしている真夜中に、従兄と峠へドリフト練習に向かうと、現地は昼間に雨が降り続いた濡れた路面で、私の愛車である型落ちの古いスポーツカー、NB型ロードスターのコントロールを失い……  道路を逸脱。  雑木林の太い枝が私の顔に刺さる直前、意識が遠退いた…筈。  なのに、こうして今までの短い18年の生涯を走馬灯のように振り返っている。  ーーー………眠気を誘うような心地の良いジャズが流れ、暗闇の景色に光が差しのべ、辺り一面は緑豊かな山々。  夜中に車を運転していた筈なのに、青々とした空が広がっている。  明らかに元いた場所の光景ではない。  私のいる場所は、その光景の湖畔。  風で湖が優しく波打ち、その波紋を指で遊びながら。  心地よい水の冷たさを感じながら、水面(みなも)に写った私の姿を眺めながら思い耽っていたのだ。  「……これから私の人生、楽しくなる筈だったのに。  友達とふざけて喜びや楽しさを分かちあって、時には悲しい事があったら、互いに励まし合ったりさ……  これから燃えるような恋をして、結婚して、子供が生まれて、家の縁側でお婆さんになって、日向ぼっこしながら湯のみでお茶飲んで、寿命全うして死ぬつもりだったのに。  私ってさ、これ……事故で死んだよね?」  情けない。  呆気ない。  私の死を目の当たりにした人達に、まだサヨナラすら言えてないのに。      
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