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眼を細めて笑う彼女の顔もまた、どこか幼気で愛らしい。
「あはは、そうだよね。
いきなりこんな事を言われても、信じるの難しいよね。
でもね、この見えてる景色。山や湖、青い空や空気、温度。あと、今も微かに聴こえてるジャズ。
これも全部、私の弟が作ったの。
凄いでしょ? この世界」
理解の追い付かない私は、湖畔の芝にちょんと腰かけて座る。
「……確かに風景も綺麗だし、この音楽も落ち着きますけど……ちょっと寂しいですよね。
貴女以外、ここには居ないんですか?」
女性もまた私に肖り、隣で腰かける。
「そうね……私は何というか、門番……じゃないな、お留守番って感じかな。
弟をここで見守りながら、ずーっと待ってるの。もう25年以上ね。
弟もだいぶ大きくなったよ。
冴えない陰キャだった生真面目メガネオタクがさ、必死になって自分磨きして、可愛い年下の彼女出来てさ、もうそろ結婚するらしいよ。
でも弟は、まだここに来ちゃダメなんだ」
彼女は尻を軽くほろいながら、天を仰いで立ち上がる。
「弟が来るには早すぎるもの。
でもね? 弟も失った人や物が多すぎるの。
ホント、エゴイストな性格は昔から変わらなくて、人を傷つけ、人に傷つけられて疲れたり、人間不信になっちゃってさ。
寡黙な奴なんだけど、私には何となくわかるのさ。
アイツ本来の優しさ。
自分の経験したことのない人の辛さも、真似事で良いから勝手に汲み取ろうとしてさ。
余計なお世話だよね。
辛いときは都合よく助け呼ぶし、情けないのに。
格好つけて維持張って余計にダサいことしてんのに」
呆れた表情で、彼女は自身の弟について語り続ける。
すると彼女は不意に、私の名を告げる。
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