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「……あれ、君。綾音ちゃんって言うんだっけ?」
「ええ、そうですけど……
どうして私の名前を?」
問いばかりの私に、皮肉にも彼女は肝心な要点に茶を濁す。
「ヒ、ミ、ツ。
なんとなく、だよ。
それよりも、本題に戻ろうか。
何故、貴女がここに居るのか。
聞きたいでしょ?」
まるでクイズ番組の司会者の様な、陽気なノリについていくのもやっとだが……
そろそろ私はもどかしくなってきたので、本題を切り出した。
「おねえさん、早く教えてくださいよ」
「まー、そう慌てないこと。
まずは深呼吸して、リラックス……そう、リラックスして……
聞く覚悟は出来た?」
まったく、焦れったい。
しかし陽気な彼女と裏腹に、私の動悸が激しくなる。
その動悸は、私の心臓をまるで突き破るように苦しくなった。
息ができない。
それでも、彼女から答えが聞きたかった。
「ちょっと、大丈夫?
まあそろそろ時間も残ってないし、言うね。
……貴女、従兄のケイちゃんと一緒に峠のP帯までドリフトしに行ったでしょ?
そこで事故を起こして、貴女が生きるか死ぬか……"運命"が揺らいでるの」
「それって……私、生死を、さ迷ってる、って事……ですか………」
彼女は黙って首を横に振る。
それから彼女は、私の周りをゆっくりと、歩いて回り始める。
「うーん…惜しいけど、ちょっと違うかな。
正確に言うと、貴女は理解できないかもしれないけど、事故を起こした直後に時間が止まって、私も何故か知らないけどこの世界に貴女が迷いこんできた。
現世の貴女は時間停止していて、貴女の乗っていたロードスターは、目の前の太い枝がフロントガラスを貫通している。
コンマ何秒か後に、貴女の頭に枝が刺さって即死するか、それとも奇跡的に間一髪、枝が逸れて助かるか否かってところ。
私の役目は、死期が訪れた人間の、救済…んー、違うな……保険、じゃなくて……選別、でもないし……
もう、なんだろうね?
私にも分かんない」
なんだこの適当な女……
人が死にそうな危機的状況に超常現象を勝手に起こされて、曖昧な受け答えしかしてくれないなんて。
狂ってる。
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