2人が本棚に入れています
本棚に追加
/63ページ
「あの、おねえさん……私、当たり前な事ですけど死にたくないです。
もうふざけた事言わないで、早くその私の状況どうにかしてください」
ワナワナと眉間が震え、必死に感情を抑える私。
彼女は人差し指を自身の顎にあてがい、数秒ほど考え込む。
「んー、そうだねー……じゃあさ。
あと何年後かは分からないけど、綾音ちゃんには試練を与えてあげよう。
もうどうしようもなく辛くて、人生から逃げ出したいって感じたとしても……
貴女は天寿を全うしない限り、もうこの世界には二度と来れないけど、それでも本当に良いんだね?
しつこく聞くけど、本当に後悔しないよね!?」
「いいから早く元に戻してください!」
私が声を粗げると、急に湖から突風が吹き荒れる。
芝が風で靡き、彼女が被っていた麦わら帽子が空を飛ぶ。
彼女は自身が被っていた帽子には気にも留めず、私に対して手を振った。
「綾音ちゃん! 最後に言っとくけど、貴女は誰からも愛されてるし、貴女の事を見守ってくれてる人が沢山いる!
いくら逃げ出したいくらい辛い事が起きても、絶対に無理しないで!
自分に負けないでね!
……貴女が寿命を全うするまで、それまで私待ってるから!
その時はちゃんと、おかえりって言ってあげるからね!」
私の身体が突風に巻き込まれ、宙に浮かぶ。
「ちょっと……おねえさん! 助けて!
私、風で飛ばされちゃうよ! きゃあっ!」
いくら私の体重が軽いとはいえ、人が空中へ何メートルも巻き上げられるなんて……
恐ろしいつむじ風だ。
「じゃあね! いってらっしゃい!」
笑顔で手を振り、見送る女性の姿が遠ざかり、つむじ風に巻き上げられた私は湖へと吸い込まれた。
最初のコメントを投稿しよう!