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ーーー…………
その刹那、衝突音。
優しく奏でられ続けていたジャズの心地の良い音色もどこへやら。
先ほどまで見ていた美しい大自然の景色すら鮮明には思い出せず、一緒に話していた筈の白いワンピースを着た若い女性の顔すら、輪郭がぼやけて思い出せない。
……眼を開けると、私が居たのは幌を閉じたロードスターの車内。
道路脇に生い茂っていた木々の太い一本の枝がフロントガラスを貫通し、私の頭を掠めてバケットシートのヘッドレスト部分の左端に突き刺さり、私の顔を掠めていた。
あと数センチ、否、数ミリでも車体が左にずれて衝突していたら、私の顔に枝が貫通して即死していた筈だ。
随伴していた従兄と、私の先輩の二人が「大丈夫か!?」と大慌てで駆け寄ってくる。
「ケイ兄ぃ………私、何があったの?」
私の家族柄、従兄夫婦と同居しているため、そう私が呼んでいる従兄のケイが応えた。
「覚えてないのか?
ドリフト中に道路脇から鹿が出てきて、避けようとしたら反対方向に車体が振られて……
路面が濡れてて止まらなかったんだよ。
おい! それより怪我は!?
大丈夫か?」
「怪我?……うーん、首の後ろとか、右手の指とか痛いけど、それ以外は大丈夫そう」
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