第三話 取引は天秤により

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 どうやら研修医の彼女は定時の検診で私の部屋まで来たようだが、私の容姿や経緯、そして私が原因不明の症状で倒れた事に気味悪がっているらしい。  暫くして彼女の側に、別の思念が近づいてくるのも感じる。  もうひとつの思念は、私の担当医師。  私が脳内で読み取れるのは、岡本 (れい)、29才男性、脳神経外科医、独身。  名門医学大学院で博士号を取得、現在はその若さながら准教授を勤め、国外に派遣、難病の手術経験も数回あるエリートと読み取れた。  "トリアージ(救命優先順位)が無いクランケ(患者)だと救急救命担当から報告があったが、心拍数、血圧は正常、呼吸も安定しているため酸素供給も必要なし……  意識は朦朧とはしていたが、呼び掛けに反応無し……  これは脳のCTを撮影後、場合によっては脳波計測、更には別の科の医師とミーティングの上、精密検査が必要になってくるだろうな"  …なるほど、このエリートをもってしても、私が倒れた原因は分からない訳だ。  ちなみに他愛も無い情報だが、看護師の白石さんには同棲している恋人が居るのにも関わらず、岡本先生と浮気関係にあるようだ。  建前上は頼もしくとも、思わず不安を煽らせる疚しい欲求や情緒の入り交じる岡本医師と白石さんが、私の居る病室へ入ってきた。
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