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私が居る病室は、私以外の患者は誰も居ない。
最初に声を掛けてきたのは、脱色したショートボブの髪を黒く染めたばかりの看護師の女性。つまり、白石さんの方だった。
「風間さーん、目が覚めましたか?」
"……この子、顔立ちも綺麗だし私より身体細くてスタイル良いのに。
なんだか何もかも白くて、ちょっと不気味だな"
余計なお世話だ。と云いたいのも山々だが、思うのは勝手。好きにどうにでも思っててもらって構わない。
「……ええ。気が付いたらここって事は、つまり私は今、病院に居るって事ですよね?」
"嘘でしょ? この子、目が覚めてすぐに自分の状況が分かるだなんて、益々気味が悪いよ……"
白石さんの考えている事に対して腹が立つが、ここは気持ちを抑えて、私は冷静に彼らへ受け答えする。
次に問いかけてきたのが、彼女の隣に立つ岡本医師からだった。
「これから風間さんの担当をさせて頂きます、岡本と申します」
知ってるよ。
「風間さん、ここへ運ばれてくる直前、何か思い出せる事はありませんか?
例えば、シャワーを浴びている最中に足を滑らせて頭をぶつけてしまったり、シャワーを長い時間浴びて逆上せたり……
掛かり付けの病院もありませんか?
お薬手帳がもしあれば、後日で構いませんので保護者の方に連絡して頂いて、持ってきて頂けると有難いのですが」
この岡本とかいう医者、真っ丁寧で好青年ぶった口調が腹立たしく感じる。
「……先生、残念ですが私は一人暮らしです。保護者は居ません。
掛かり付けの病院もありませんし、薬手帳なんか持ってません。
たぶん私、シャワーで逆上せたんだと思います。
私、任意の医療保険入ってないから、診察料と入院費が勿体ないので早く帰してください」
私の言い分に対して、"なんて生意気な子なの"と怒りの気持ちを脳裏に浮かべた看護師の白石さんは私を睨み付け、岡本先生は本当に脳内で思考を悩ませ、困った顔で溜め息をつく。
少しして岡本先生は、咄嗟に思い付いたことを私に言ってきた。
「あまり此方からも根掘り葉掘り聞くのも失礼に値するのは承知ですが、思い立った事は何でも言って頂いて構いません。
夕食に何を食べたか。市販の薬を飲んだか。
動物や植物に触れていないか。
どんな些細な事でも、気軽に言ってください」
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