第三話 取引は天秤により

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 私はマルチ勧誘していたババアの視線を避けるように背後から通りすぎると、不意に思念がどこからか紛れ込んできた。  "嗚呼、雪の如く純白の肌、星の色に染まった白銀の髪! あの人はもしや、私と出会うために運命を与えられたのですね!"  若い女の思念だ。  純粋で無垢だが、どこか怪しい。  記憶を辿る際はビジョン、思念を辿る時は音に変換されて私の脳内に伝わるが…………  この思念には、ラジオの周波数をチューニングするようなノイズが混じっていた。  それから私の目の前に立ちはだかり、勢いよく少女はこう言った。  「そこの貴女は神を信じますか?」  来た。典型的な誘い文句。  ん? ちょっと待てよ?  にしては、勧誘してきた少女の格好がどうもおかしい。  大体、こう言ったキリスト系列から派生した新興宗教の勧誘は、カジュアル寄りで清潔感が溢れる服装かつ、柔らかな物腰で誘ってくるものだが………  両手を大きく広げ、自信あり気な笑みで私の行く手を阻んだ少女の格好は、どうも珍妙である。  
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