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私の持ちかけた条件に杉谷は眼を輝かせ、すぐに私の手を引いて、歌舞伎町へと向かった。
時刻は午後3時。
夕暮れ時までまだ時間があるのにも関わらず、家も身寄りも無い中高生の男女がビル前の広場に座り込み、各々が暮らしていた。
昼間から未成年がタバコを吸い、酒を飲み、営業回りの中年サラリーマンに声を掛けてホテルへ誘ったり……
どうも海外から安全で治安の良い国だと評価される事に疑問を抱いてしまう異様な光景だ。
その中で最も異様な光景だったのが、大勢の若者の中に紛れ、ブルーシートを蓙代わりに地べたに敷き、その上にガスコンロを置いて鍋で調理している男性の姿があった。
私の手を引いて案内する杉谷が、その男性に指を差す。
「あれだよ! あの人がウチらトー横の救世主、"トー横のマルク"だよ!」
地べたに敷いたブルーシートの上で胡座をかいて座る後ろ姿を遠巻きで見るが、あれは間違いなく、私の記憶の中では死亡したと報道された、テレビに写っていたマルク張本人に違いない。
杉谷はマルクと顔見知りのようで、親しげに大きく手を振って彼を呼ぶ。
「おーいマルクさーん!」
彼女の呼び掛けにマルクが振り返り、気さくな返事を交わしていた。
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