第五話 均衡は左右し

2/6
前へ
/63ページ
次へ
 ……‥あれから私のアパートに、綾乃が住み着いた。  私の名前が風間 綾音、  彼女の名前が杉谷 綾乃と、  名前が似ている、という理由だけで勝手に私は気に入られ、お互いに曖昧な偽造の戸籍で工夫しながら生活費を工面している。  私は物心がついた時から家族が居らず、家族と過ごした記憶も無い。  だが潜在的に、生き方は覚えている。  料理や家事洗濯の仕方は潜在的に、分かりやすく云えば生まれた時から身体に染み付いている。  時間になればアパートへ郵送で届けられた書類に指定された高校に通い、毎月25日には何故か生まれた時から所持し、教わった訳でもなく使い方を理解している銀行口座に70万円近くの金が振り込まれている。  いくら通帳を記帳しても、"シエンキコウ"と半角の字で正体不明の名義から送金されていた。  ネットの掲示板やSNSで検索してもヒットせず。  トア·オニオンや自作マルウェアを使ってパソコンで口座番号を辿れる深層ウェブを利用しても該当無し。  同居を始めた綾乃にそれを説明しても、彼女は到底、理解できずに茶を濁して「行ってくるね」と言い残して通信教育の高校に通い、深夜までバイトして帰ってくる日常を繰り返していた。  
/63ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加