第五話 均衡は左右し

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 そして到頭迎えた2021年9月。  トー横界隈で最も有名なリーダー格とされていたマルク·ドラグノフが未成年とわいせつ行為に及んだとして逮捕。  拘置所にて死亡しているのが発見されたと報道された。  マルクが亡くなったとされる日の翌日、綾乃は服が乱れ、全身が痣だらけで私のアパートに帰ってきた。  しかし彼女の思念を読み取っても、経緯が何も分からない。  綾乃がアパートから戻ってきた時には既に彼女の記憶は全て真っ黒に塗り潰され、デストルドーしか残っていなかった。  ……翌朝、綾乃は満面の笑みで「さよなら」と私に言い残し、アパートのベランダから飛び降りた。  私が寝ている間に、"綾音は一生の親友。もし生まれ変わったら、また一緒になりたい"と遺書を書き残していた。  私と撮ったプリクラは、私の眼が届かない内に綾乃の顔が黒いマジックペンで塗り潰されていた。  綾乃は私の目の前で、アパートの6階から転落。  即死だった。  そしてマルクの死と綾乃の死に、事件的には何の因果も直接的な関係も無かった。  
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