2人が本棚に入れています
本棚に追加
/63ページ
落胆していた彼女は重い腰を上げ、個室を出る。
受付まで歩き、洗顔用具と風呂用具を買ってシャワーの貸し出し利用の手続きを済ませた。
タオルやシャンプー等の道具を入れた風呂桶を脇に抱え、綾音はシャワー室までの通路を歩く。
……人とすれ違い様に、ビジョンが脳裏に入ってくる。
例えば、本棚の前で漫画を選んでいる者なら、めぼしい本を探す人差し指が横へスライドして滑っていくビジョン。
平均的な一般男性の肩の丈まではあるだろう薄い壁で仕切られたボックス席も、プライバシーなど無いに等しい。
綾音には、仕切りの中でも男女のカップルが抱きついて寝転がっている様子や、耳では聴こえなくとも会話の内容すらも頭の奥へ直接伝わってくる。
しかし彼女には唯一、安らげる空間があった。
それは、浴室。
誰もが睡眠こそ安らぎだと思い浮かべるかもしれない。
だが綾音にとって睡眠が最大の苦痛と云っても過言ではないだろう。
最初のコメントを投稿しよう!