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青年は心情を悟られまいとその場しのぎの笑顔を作った。万が一にでも涙を流せば、変な誤解を生みだしかねない。
「おめでとう」
感情を振り払うように、今度は声を大にして言った。
「ありがとう」
小さいながらも、はっきりした声が青年の耳に入った。しかし反比例するかのごとく彼女の表情はどこか沈んでいた。
そのご、青年は他の列席者たちとホール会場へと移動した。新婦のお色直しを待つあいだ、席に座ってコーヒーを飲む。ところが待てども、なかなか姿を見せない。周りの人間たちも不思議がり、ざわつきはじめた。
青年は、彼女が登場する予定の扉のほうを見てみた。式場の係員らが腕時計を確認し、首をかしげあっている。なにかあったのだろうか? 訝しがっていると、ポケットのスマホが震えた。
表示された名前を見て、青年は通話ボタンを押し、すぐに席をあとにした。ひと気のない通路までくると、周囲を警戒しながらスマホを耳に当てた。
「もしもし」
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