幼なじみの一大事

3/5
前へ
/5ページ
次へ
 青年は心情を悟られまいとその場しのぎの笑顔を作った。万が一にでも涙を流せば、変な誤解を生みだしかねない。 「おめでとう」  感情を振り払うように、今度は声を大にして言った。 「ありがとう」  小さいながらも、はっきりした声が青年の耳に入った。しかし反比例するかのごとく彼女の表情はどこか沈んでいた。  そのご、青年は他の列席者たちとホール会場へと移動した。新婦のお色直しを待つあいだ、席に座ってコーヒーを飲む。ところが待てども、なかなか姿を見せない。周りの人間たちも不思議がり、ざわつきはじめた。  青年は、彼女が登場する予定の扉のほうを見てみた。式場の係員らが腕時計を確認し、首をかしげあっている。なにかあったのだろうか? 訝しがっていると、ポケットのスマホが震えた。  表示された名前を見て、青年は通話ボタンを押し、すぐに席をあとにした。ひと気のない通路までくると、周囲を警戒しながらスマホを耳に当てた。 「もしもし」
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加