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「よかったあ。通じた」
電話の向こうの声はかぼそかったが、安堵に満ちていた。
「どこにいるんだ? みんな花嫁の登場を待ってるぞ」
つられて青年も自然と声を潜める。
「トイレ」
「悪りぃ。なら、すませて出てこいよ」
「それがね……。ねえ、子供のころにしたあの約束さ、まだ覚えてる?」
彼女は言い淀み、突然、妙なことを聞いてきた。
「は? 急になんだ」
「いいから答えて」
「わかったよ。おまえがピンチになったら助けてやる、って約束のことだろ? ったく、恥ずかしい過去を掘り返さないでくれ」
あれは確か小二のときだ。通学路の途中にデカい犬を飼っている屋敷があって、その前を通ると、必ずその犬が吠えた。鉄柵越しでも今にもかみつかれそうで怖かった。でも、俺は恐怖で足をぴくぴくさせながら、おまえがピンチになったら助けてやる、といつも強がって約束していたのだ。
「そうなんだ。わたしはけっこう心強かったよ。きみが守ってくれるんだ、って思っていたから」
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