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「花婿が聞いたら妬きそうだ。とは言っても、結局、約束をはたす機会はなかったけど」
「じゃあさ。その約束を今はたして、って言ったら怒る?」
あまりにもワザとらしい言いまわしに、青年もさすがに違和感を覚えた。
「なんだかさっきからおかしいぞ。……おまえ、まさか!」
わたしをチャペルから連れだして逃げてとか頼むんじゃないだろうな? と言葉をつづけそうになり、青年はとっさに自分の口を塞いだ。バカげている。よく考えろ。非現実的すぎる。そんなのはドラマの中だけで充分だ。
「いたか?」
「見つかりません」
係員たちが焦った形相で、あわただしく駆けてゆく。だれかを探しているらしい。
こうなると、いよいよ青年の妄想も真実味を帯びてくる。
冗談じゃない。いくら約束でも、人さらいだぞ。いや、しかしこいつはそこまでして、この式場から逃げだしたいのか。だったらここは俺が一肌脱ぐしか。青年が決意しようとした刹那、彼女が情けない声をだした。
「信じられないけど、そのまさか。ずっとトイレ我慢してたんだけど、できなくなってね。仕方なく男子トイレに入ったらトイレットペーパーがなかったの。だからお願い。今すぐ男子トイレにきて!」
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