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家に帰ると、先輩が死んでいた。
築10年のそこまで広くないアパートの、埃の舞う薄暗い空間に、腐ったみたいな匂いが充満しているのがまず吐き気を催す。今回はよりによってこの死に方かよ……と、俺は心の中で悪態をついた。
焦点を合わせると、2人の共有スペースである四畳半の畳の上に、色んな排泄物を撒き散らしながら、天井から吊るされて、空中でプラプラ浮かんで死んでいるのが見えた。とてもノーマルだが、汚い死に方だ。
こんな茶番早く終わらせたいが、俺には先輩の死体をちゃんと見なければならない義務がある。
毎回御丁寧に遺書が書かれていて、その内容も、毎回『ちゃんと見てね☆』なのだった。
馬鹿馬鹿しい。
まあ、バカ正直に一々それに従う俺はもっと馬鹿なのだが、多分これが惚れた弱みというヤツなのであろう。結局死体に逆らえないくらいには、俺は先輩の事が好きなのだった。
死体は、一見では、人型の肉塊と形容するのが一番相応しい。
顔は土色になって、口からは涎が垂れて、ポタりポタりと畳を汚している。真下にビニールシートをおいて、下から流れ出る黄土色の有機物はちゃんとその中に収まっているのに、こういう所が本当にツメが甘い。イライラしながらも、なんとか先輩の死体を一周してから、俺は流石にもういいだろうと思い、溜息をついて、
「先輩、畳の汚れと、あと排泄物。自分で処理して下さいよ。くせえ。」
と言った。すると、今まで人型をした臭い物体だったものが急に頭部をぐるんとこちらに向けて、土色の顔のまま、少し悲しそうに
「今回も駄目か。」
とガラガラの声を絞り出しながら微笑むのだ。
俺に及第点を貰えなかった先輩のこんな表情を見るのも、もうこれでこれで35回目だった。
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