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「駄目ですよ。俺スカトロの趣味ありませんし。」
俺がそう言うと、先輩は相変わらず土色の顔のままポリポリ頭を掻きながら、照れくさそうに
「そうか、そうだよなあ。……次は頑張る!」
と言って、ポケットからカッターを取り出し、器用にロープを切って排泄物の乗ったビニールシートの上に着地した。
これが35回目の壮大な茶番の終わる合図だ。
着地してから先輩の顔色は見る間に良くなって行き、首についた痣も、瞬く間になくなっていく。コキコキと2回首を鳴らして、その後
「とりあえず風呂入るわ。大きめのタオルちょうだい。」
と、俺に言った時には、先輩は完全に俺の恋人である「先輩」に戻っていた。俺がバスタオルを渡すと、先輩はサンキュ、と言ってバスタオルを下に敷きながら風呂場に向かって行く。
そんな先輩をぼんやりと見ながら、俺はこの、非現実的な茶番にすっかり慣れてしまった自分に対して、人間の適応能力って怖いなあと、ふと思った。
最初に先輩が自殺を図った時、呆然自失としてその場に立ちすくんだ俺の目の前で、土色の顔をぐるんと向けて、絶望仕切った顔で、今にも消え入りそうな声で
「死ねない……。」と吐き出したあの日から二年。
――先輩は、不死身で、無類の自殺マニアになっていたのだった。
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