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そもそも先輩が何故最初の自殺に至ったのか。
答えは簡単。あの人のメンタルは絹豆腐より脆いのだ。イケメンでコミュニケーション能力が高く、今まで女に困った事がなく、その癖人一倍臆病な先輩は、俺との関係が始まってからいつも何処か不安げだった。
先輩は先天性のゲイセクシャルである俺とは違って、俺が無理矢理こっちの道に引き摺り込むまではどう足掻いたってノンケ以外の何者でも無かったのだ。
更に「ゲイ」や「同性愛」という単語を出しても、俺に出会う迄はそもそもそんな人種が実在しているという事にピンと来ていなかったというレベルだから、まさか自分がその当事者になるとは万が一にも思っていなかっただろう。
要するに、俺との関係は先輩にとって未知のもの過ぎたのだ。
加えて生来の豆腐メンタル持ち。「世間の目」という、セクシャルマイノリティの人々が一度は死ぬほど悩むこの答えの出ない問題に、先輩は多分人一倍苦しんでいた。
そうして当然のようにだんだんと弱っていく先輩を見て、俺も俺で罪悪感を募らせていった。お互いがお互いをきちんと好きになった筈なのに、先輩からは幸せだという感情がまるで伝わって来なかったから。
今はもう酒の肴にでもしながら笑って話せることだが、あの頃は本当に毎日が地獄だった。
先輩を見て一目惚れしてから、自分の持てる武器全てを使ってなんとか先輩を落とした時には得も言われぬ達成感と快感と興奮と幸福とがぐちゃぐちゃに絡み合って、花畑に溢れていたのに、その一年後に自殺なのだから人生とは本当にジェットコースターのようだなと思う。……おかげ様で今現在はラブラブカップルですがね。
閑話休題。
まあお互いにあの頃は弱っていて、とうとう先輩に対して「好き」よりも罪悪感が上回ってしまった俺は、先輩に別れを切り出した。
俺は小さい頃から男が好きだったから、妙な所で諦めが早い人間になってしまったらしい。
根っからの同性愛者だからこそ、何かあった時に弱い先輩を「世間の目」から守れる自信が俺には無かったのだ。
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